PROJECT STORY - 1
G7広島サミットにおける
撮影・クラウド配信プロジェクト
ニュースとして、写真を世界へ届ける。
2023年5月19日から21日にかけて、「G7広島サミット」が広島で開催された。このような国際会合の場においてホスト国(開催国)が担う業務のひとつに、各種行事の撮影とそのデータの配信がある。外務省からこの一連の業務を託された、富士フイルムイメージングシステムズ。ウクライナ大統領電撃来日により、特に国際的な注目を集めた今回の広島サミットの舞台裏では、どんな苦悩や工夫があったのか。その挑戦の物語をひも解きます。
[ 全体統括 ]
イメージテック事業本部
ID&クラウド事業部 課長
山口 智史
Satoshi Yamaguchi
(1999年入社)
[ 現場担当 ]
イメージテック事業本部
ID&クラウド事業部 営業
長谷川 涼太
Ryota Hasegawa
(2021年入社)
[ 技術担当 ]
営業技術部
板花 侑耶
Yuya Itahana
(2021年入社)
広島で開催されることの意義。
「今回は、いつものサミットとはわけが違う」。そんな言葉とともに、日頃ID&クラウド事業部にてマネージャーを務める山口は、本プロジェクトの現場統括を任された。富士フイルムイメージングシステムズ(以下、FFIS)は、長年にわたりサミット開催時の撮影と配信を外務省から委託されており、そのためすでにノウハウは社内に蓄積されているはずだった。しかし、今回はいつもとはわけが違うという。
「今回の広島サミット総理のお膝元での開催ということもあり、各国への“おもてなし”により一層、力が入っているとの噂がありました。また、広島といえば国際平和文化都市として知られています。国際紛争の情勢に注目が集まる中でのサミットは重要なシーンが多くなることが予測されました。」
FFISに託された業務は、サミット期間中のあらゆる会合、公式行事、晩餐会などの各種イベントを撮影すること。そしてその画像データをリアルタイムで各国の報道機関に配信することだった。この“リアルタイムで”というのが肝だ、と山口はいう。
「もちろん各国のメディアも数多く来日していましたが、会議場や晩餐会の中にはセキュリティー確保のためホスト国の撮影班しか立ち入ることができない行事が数多くあります。まだ誰も知らない広島サミットの一部始終を、いち早く配信する。私たちに託されているのは、ただの記録ではなく、ニュースとして世界に届けることでした」。 そこで山口が声をかけたのは、FFIS独自のクラウド一括管理システム『IMAGE WORKS』の技術担当・板花と、自らの直属の部下にあたる営業・長谷川だった。2人は当時、新卒入社の同期同士。柔軟な対応が求められるタフな現場において、あうんの呼吸で意思疎通できるチームが適任だと考えた。
当日までの事前準備が9割。
技術担当・板花はこう語る。「過去の実績を振り返ると、サミット期間中の撮影データ数は、数万枚以上。当社が独自開発した、『IMAGE WORKS』というクラウドサービスを活用すれば、膨大な画像データを安全に一括管理できることは分かっていました。しかし、気がかりなのは、その運用面。リアルタイムで配信するために、迅速に公式サイトに画像がアップロードできなければいけない。しかし、カメラ実機のSDカードからPCにデータを転送し、膨大な画像の中からセレクトして…となると、データの送受信に割ける時間はあって5分。安定的に高速回線を確保できるのか、不安がありました」。
そこで、サミット開催前には現地に前乗りし、会場すべてを回ることにした。外務省から事前告知されたスケジュールを参考に回るのだが、例年よりも各国首脳のパートナーによる文化交流、『パートナーズプログラム』のイベント数が多いのが特徴だった。そして中でも特にネックになった会場が、広島を代表する観光地とも言える宮島。そこで、板花の不安は的中する。
「世界遺産である厳島神社を有する宮島は、今回のサミットの見せ場。しかし、晩餐会が予定されていた会場は、宮島の山中にありました。手元の携帯ですらアンテナは1本しか立っていない状況、電波環境は最悪でした」。結局3人で手分けをして、周辺施設と交渉し、有線回線の引き込み交渉を行うこととなった。なんとか交渉に成功し、開催前日までに高速回線を引き入れることに成功した。
想定外の出来事を乗り越えた3日間。
そして、2023年5月19日。G7広島サミットの開催日を迎えた。FFISの運営メンバーは、計30名。経験豊かなプロカメラマンが13名と、現場担当が板花・長谷川を含め17名。それぞれカメラマンと送信担当が2人組で行動し、空港から各会場、そして宮島、広島平和記念公園などを行き来しながら撮影をした。現場で送信担当をしていた、長谷川はこう語る。
「常に分刻みのスケジュールなので、カメラマンの誘導場所を間違えたり、撮影データを取り違えたりすると、ドミノ倒しのように遅れていきます。現場で焦る場面も多かったのですが、想定外の出来事はつきもの。何かあったら一人で動くのではなく、ちゃんと仲間に相談して、このプロジェクトを成功させることを一番に考えようと思っていました。」
緊急のことが起きれば、運営メンバー全員が見られるオンラインチャットで報告・相談。時には無理なお願いをすることもあったが、運営メンバーの一人ひとりが、各現場から今自分にできることを考え、協力し合うことに努めた。なかでも今回、最も想定外だった出来事が、ウクライナ大統領の緊急来日だった。来日の情報は安全確保の観点から当社にも知らされていなかった。そのため、前日の夜に緊急の打ち合わせが行われ、外務省の担当者の方から来日の詳細とともに撮影プラン立案の相談を受けた。
「正直、驚きました。翌朝、到着シーンの撮影のために広島空港に向かいましたが、安全管理の都合上、到着時刻は知らされていません。そのため早朝から現場に張り付きで、正直体力的な消耗もあったのですが…、いざ大統領が飛行機から降りてくるのを見た時には、世界中が注目する一大ニュースを誰よりも早く届けるぞ、と気持ちが昂りました」。
一人ひとりの自走力が、成功のカギ。
5月21日、G7広島サミットは幕を閉じた。最終的に、過去最多のデータが世界に配信された。さらには、電撃来日したウクライナ大統領の写真が、通常よりもかなり多くアクセスされたことが分かった。いかに世界的な注目を集めたニュースであったかが窺える。
今回のプロジェクトを終え、山口はこう振り返る。「まずは無事に終えられたことに、ほっとしています。何より、期間中のメンバー一人ひとりの自走力の高さには、感化されるものがありました。統括である私がしたことと言えば…現場の動向を見守ること、そして、何か迷う場面があれば相談しやすい空気をつくることくらい。適度に差し入れを買っていったり、ね(笑)。非常に頼もしく、今後が楽しみになりました。」
それに対して、長谷川はこう語る。「今回こうして大規模なプロジェクトに関わらせていただき、とても刺激を受けました。普段は知り得ない国際会議の舞台裏も知れましたし、自分が撮影に携わった写真が、テレビや新聞で取り上げられているのを見ると不思議な気持ちでした。」
このプロジェクトの成功を経て、外務省の担当者からもお礼のご連絡をいただいたという。特に宮島での回線整備の対応については、チーム内からも評価が高い。「日頃はクラウドシステムの導入支援をしていて、デスクワークが中心なのですが、今回のように現場に足を運び、運用面の計画もして…という経験は貴重でした。入社3年目でも技術担当を任せてくださった先輩方には感謝しかありません。ありがとうございました。」そう板花は語る。